スタッドレスタイヤは冬道の安全走行のために設計されており、雪や氷の路面でグリップ力を高める特殊なゴムとパターンを備えています。しかし、全て雪道を完全に安全に走行出来る万能な装備ではありません。
特にミラーバーンのように氷の層が路面に形成される状況や、急な長い上り坂・下り坂では、車両の駆動方式や重量配分によってグリップ不足が顕著になることがあります。FR車は特に雪道でのトラクションが弱く、FF車や4WD車に比べると走破性が劣ります。
こうした状況で頼りになるのがタイヤチェーンです。チェーンは雪や氷の路面に物理的な噛み付きを提供する為、スタッドレスだけでは不足する場合に有効です。特に、豪雪地帯や山間部での急な坂道、突発的な降雪に対応する場合には、チェーンのほうが安全性や安心感が高くなります。年に数回程度のスキーや雪道走行の為に備える場合でも、チェーンは持ち運びや装着の面で便利です。
また2018年12月14日の改正「チェーン規制」により、大雪時の緊急情報や過去に立ち往生が発生した区間では、スタッドレス装着車でもチェーンの装着が義務付けられています。これは雪道の状況によってスタッドレスだけでは十分な安全性を確保できないケースがある為で、ドライバーの自己判断だけに頼る危険性を減らすための規制です。
最近のタイヤチェーンは、従来の面倒な装着方法とは異なり、ジャッキアップ不要で簡単に装着できるタイプが増えています。これにより、チェーン装着による不便さや走行時の振動・騒音も軽減され、乗り心地も大きく改善されています。技術の進歩によって、チェーンの面倒くさい、乗り心地が悪いといった従来のイメージは覆されつつあります。
タイヤチェーン性能比較
最新チェーンに関するタイプ別製品詳細情報です。「非金属チェーン」「布製カバー」「金属チェーン」の3つで定着した現在、各々異なる特性や装着方法など理解し納得の購入へ繋げたい。
非金属チェーンは装着の簡単さと乗り心地の良さが特徴です。布製カバーは新たなチェーン規制に適合、一部はクルマメーカーの純正指定されるなど既に実績があります。そして金属チェーンはハシゴ型から亀甲型まで存在。特に亀甲型はがっちりタイヤを覆い絶対的な信頼性が高い。
など、様々な特徴を備えた3タイプがそれぞれラインアップ。シーズンの特徴に触れた上で注目製品をピックアップします。
最新タイヤチェーン事情!
2016年度の販売数を見てみると、金属製チェーンは約40万ペア、非金属製チェーンは約24万ペアでした。この差は、金属チェーンの流通量や価格帯が手頃であることが一因です。特にトラックやバス、商用車など大型車両では、強度と耐久性が重視される為、金属製チェーンの需要が圧倒的に高くなっています。金属製は耐摩耗性に優れ、氷雪路面での確実なグリップ力がある一方で、装着時に騒音や振動が生じることがあります。
一方、近年は布製タイヤカバーのシェアが増加しています。カー用品店の調査では、布製カバーのシェアは全体の約30%に達しており、金属チェーンが約35%、非金属チェーンが約45%という結果です。(数値の合計は100%を超えていますが、これは各種チェーンが重複して計上される場合や、ざっくりした推計の為)
布製カバーが台頭している背景には、2018年の新しいチェーン規制の影響があります。国土交通省の規制で、従来は緊急脱出用に限定されていた布製カバーが正式にチェーンとして認められ、安心して使用出来る製品として市場訴求が進んだことが大きな要因です。
非金属チェーンは今でも高いシェアを維持しています。その理由は、装着・脱着の容易さ、乗り心地の良さ、耐久性など、総合的なバランスが優れているためです。特に一般乗用車や小型SUVなどでは、金属チェーンに比べて振動や騒音が少なく、日常的に使いやすい点が評価されています。
チェーンの基本的な役割は、タイヤに装着することでタイヤ表面に凹凸を作り、氷雪路面でのグリップ力を高めることです。材料別に大きく3つに分類されます。非金属チェーンはゴムや樹脂を用い、軽量で装着性や乗り心地が良いのが特徴です。布製タイヤカバーは特殊な繊維を使用しており、滑り止め性能を持ちながらも軽量で取り扱いが簡単です。金属チェーンはニッケルやスチールを使用し、高耐久で氷上性能が優れます。
非金属チェーンの特徴
非金属チェーンはゴムや樹脂を素材とし、中でも近年はポリウレタンエラストマーが主流となっています。この素材は弾性や強度、低温耐性、摩耗耐性に優れ、マイナス20℃の環境でも硬化せず破損しにくいのが特長です。
更に加工性にも優れ、タイヤ全体を覆うネット型や分離型など多様な形状に対応出来る点も重要です。
トレッド面には超硬材質のスパイクピンが装着され、マカロニ型や充填数増加によって氷結路面に深く食い込み、高いグリップと走行安定性を実現します。スパイクピンと言ってもチェーンの性格から、雪の無いドライ路では取り外す為、かつてのスパイクタイヤのような公害問題への懸念は少ないとされています。
また、従来チェーンの欠点であった走行時の振動や騒音は、素材特性とデザインの最適化によって大幅に改善され、快適性と静粛性が向上しました。
装着方法も進化しており、従来のゴムバンド式やフック式に代わり、簡便なロック機構で最小の力で締め上げと固定が同時に可能になっています。耐久性も金属チェーンを大きく上回り、製品によっては5倍もの寿命を誇るものもあります。
更にホイールを跨ぐ部品を使わない設計により、装着時のホイール損傷リスクが最小化されるのも利点です。但し価格は金属チェーンより高めですが、性能・快適性・耐久性を総合すれば、冬季タイヤ補助具として最有力の選択肢と言える存在です。
布製カバーの特徴
近年普及している布製タイヤカバーは、従来のチェーンとは異なり、撥水性や通気性に優れた特殊合成繊維、主にポリエステルを素材とした専用品です。
ノルウェーで開発された「AutoSock(オートソック)」が先駆けとされ、最大の特長は装着の容易さにあります。タイヤに被せるだけで済み、上半分を掛けて半回転させ、残りを被せれば装着は完了します。
走行を始めれば遠心力によって自然にセンターが整い、タイヤにしっかり馴染む仕組みです。むしろ外す時の方が時間がかかるほどフィット感が高いです。
性能面では、トレッド部分に施されたリブ構造が雪道や氷上で確かなトラクションを発揮し、サイド部分も強度の高い繊維で補強されている為、安定性に優れています。深雪では慎重な操作が求められますが、全体的なバランスは非常に良く、従来は緊急脱出用とされていた範囲を越えています。
耐久性は速度50km以下を守れば、乾燥路で50km以上、雪道で100km以上の走行が可能です。但し、素材の特性上、金属や非金属チェーンに比べて劣化は早く進みます。
収納は非常にコンパクトで、専用ケースに畳んで収められる点も支持を集めています。使用後に水洗いし、しっかり乾燥させれば寿命を延ばすことができます。
以前は高速道路のチェーン規制時に現場係官の判断で通行出来ない場合がありましたが、2018年の規制改正によって布製カバーも正式にチェーンと認められました。これにより非常用から実用的な装備へと地位を確立し、近年では新車の純正品として採用されるケースも増えてきています。
金属チェーンの特徴
金属チェーンの形状には、ラダー型と亀甲型(近年はダイヤモンドパターンとも呼ばれる)があり、ラダー型は価格が安く直進性に優れる一方で、横滑りに対してはやや弱い傾向があります。対して亀甲型は縦横双方のグリップを確保でき、雪上や凍結路での安定感が格段に高まり、安心して走行できる利点があります。
素材面では、ニッケルクロムモリブデン合金といった特殊鋼が代表的で、熱処理を施すことで航空機やエンジン部品に用いられるほどの高強度と高耐久性を発揮します。
標準的なチェーンは9mm径のリングで構成されますが、近年は10mm仕様の製品も登場し、摩耗への強さと食い込みの鋭さをさらに高めています。また従来のダイヤモンドパターンから改良された「NEWダイヤモンドパターン」へと進化し、直進安定性や横揺れ防止性能を一段と強化し、従来の弱点を補っています。
課題とされてきた乗り心地や騒音については、金属ゆえの限界は残るものの、フィット性の改善や剛性向上によって振動が和らぎ、静粛性もある程度向上しています。
装着の難しさに関しても改良が進み、ジャッキアップ不要で短時間に装着出来るクイックタイプが登場し、30秒装着を謳うモデルもあるほどです。ただし金属チェーンは取り付け不良がトラブルに直結しやすく、緩みや破損によって車体やブレーキホースを傷つける危険性もある為、確実な装着が不可欠です。
非金属チェーンや布製カバーの進化によって選択肢は広がりましたが、それでも金属チェーンは耐久性、効き、信頼性の点でいまだ最も安心感のある存在と言えます。
JASAA認定タイヤチェーンとは?
JASAA認定チェーンとは、JASAAが認定しているタイヤ滑り止め装置のこと。タイヤ滑り止め装置、いわゆるチェーンです。認定されると「S」マークが表示されます。「S」マークはSafetyの頭文字、安全に対してお墨付きと捉えて良いかと。
JASAA(ジャサ)とはどんなところ? JASAA(一般財団法人日本自動車交通安全用品協会)は、Japan Automobile Traffic Safety Accessories Association の略称です。非金属製チェーン及びケーブル式チェーンについて、性能に関する基準を作成、その性能の審査を行い合格品について認定を行います。
協会内に滑りに関する学識経験者、交通に関する行政機関の職員等で構成する「認定委員会」を設置、認定委員会が中心となり基準の作成及び実車走行試験を行い認定を行っています。認定された商品は、収納ケースの外側に「S」マークを、滑り止め装置本体には認定票が表示されます。
「S」マーク製品は、群馬県と新潟県をつなぐ日本一長い関越トンネル(10km以上)も、装着したままで走行することが出来る(係員の指示を守る)など、以下のような特徴を備えています。
1、道路の破損が少ない
2、着脱が容易
3、滑らかな走行
4、アイスバーンに強い
5、600km以上の耐久性
6、高速道路の本線やインターチェンジの坂道をすべてクリア
7、関越トンネルを装着したまま走行できる
この特徴を得た製品がJASSA認定品となる訳です。注目するのは非金属製チェーン及びケーブル式チェーンに限定していること。
非金属はゴムやウレタンを利用したチェーンです。対してケーブル式は金属に括られますが、一般的なリングを繋ぐ亀甲パターンとは区分けし、接地部を構成するのはスプリング、ワイヤー、ケーブルなど。600km以上の耐久性が認定要件のひとつとなっており、ここに絡むところなのでは。
なおJASSA認定品メーカーと製品を一部示すと以下の通りとなります。
・合同会社アイコ ECOMESH Ⅱ
・株式会社カーメイト BIATHLON EZ×FIT
・株式会社コイズミ Yeti Snow net WD
・株式会社ソフト99 救急隊ネット
・コーニック
チェーンの購入条件としてJASSA認定品は信頼性が高まります。ただ認定品でないものが安全性に問題あり、という訳ではありません。今人気の布製カバーは認定にはなりません。また国際的な第三者機関による認定を謳う製品もあります。
チェーン規制の改正!
2018年12月14日付けで改正「チェーン規制」が施行されました。従来までとは異なる内容なので是非理解しておきたい。
どこで実施?
雪が降ったら近所の道でも必ずチェーンを装着しなければいけないの? という捉え方で当初は混乱がありました。しかしそうではない。
規制はスタッドレスでもチェーン装着が必須になる。但し、気象庁が大雪特別警報や大雪に対する緊急発表が行われるような異例の降雪時、勾配の大きい峠部で過去に大規模な立ち往生などが発生した区間、しかも近くにタイヤチェーン脱着場が整備されている場所や、通行止めが解除されるまで待機できる場所がある所を中心に区間が決定されています。
具体的には、全国13区間(うち直轄国道6区間、高速道路7区間)を指定。現在の具体的区間については Q&A国土交通省 チェーン規制は、どこで実施するの? で確認を。
この区間を通行する場合、スタッドレスを装着してもチェーン装着が必須になります。もちろん4WDでも同様です。なお違反すれば罰則(6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金)が科される場合があるようなのでご注意を。
どんなチェーンでもいいの?
道路運送車両の保安基準(走行装置等)第9条第4項には、タイヤ・チェーン等は走行装置に確実に取り付けることができ、かつ、安全な運行を確保することができるものでなければならない。としています。これを基に以下のような指針が示されました。
①金属チェーンタイプ : 金属製のチェーンやワイヤーの製品
②ウレタン&ゴムチェーンタイプ : ゴムなどの樹脂製の製品
③布製カバータイプ : アラミドなどの特殊繊維製の製品
カー品店などで販売されているものであれば問題なし。但し、スプレーのように薬剤を吹き付けるタイプのものでは駄目‥詳細は Q&A国土交通省 チェーン規制のチェーンはどんなチェーンでも良いの? で確認を。
タイヤチェーンの様々な知識
チェーンに関する様々な知識を理解したい。装着することで安全性が高まるのは間違いないけれど、誤った知識によっては危険を招くこともあります。例えば4WD車の装着はどっちにすればいい? スピードの出しすぎには注意を! 使用限度は5年! 限度超えは安全性能が低下、など重要な点をメーカー指針など根拠を持って示します。
製品情報が最大興味なのは当然ながら、同時にこれらも是非理解して欲しい。かなり重要なポイントを押さえたつもりです。